「ナイキの創業者」と検索する人の多くは、たぶん「あの巨大ブランドは、どんな始まり方をしたのか」を知りたいのだと思います。 意外に思うかもしれませんが、答えは「会計士の副業と、コーチとの二人三脚」。 派手なテック創業でも、潤沢な資金でもありません。これから何かを始めようとしている あなたに、驚くほど近い話です。
ナイキは「車のトランク」から始まった
フィル・ナイトは1962年にスタンフォードのビジネススクールでMBAを取得。 その後、日本の神戸を訪れ、オニツカタイガー(現アシックス)の靴の アメリカ西部での販売権を握手で取り付けます。帰国後に立ち上げたのが、 後にナイキとなるブルーリボンスポーツ(Blue Ribbon Sports)でした。
ただし、これは最初から本業ではありませんでした。ナイトは会計士(公認会計士)として働き、後にはポートランド州立大学で会計を教えながら、輸入したタイガーの靴を自分の車のトランクに積み、 陸上競技大会をまわって売り歩いたのです。いわば、堅い本業を持ちながらの 「副業」からのスタートでした。ナイトが靴の事業に専念するため会計の仕事を離れるのは、 創業から数年後のことです。
地道な行商の1年目、ブルーリボンスポーツが売った靴は約1,300足、 売上はおよそ8,000ドル。翌1965年で約20,000ドル。 誰もが知る巨大ブランドも、出発点はこの小さな数字でした。
共同創業者・ビル・バワーマン — 「作る側」の相棒
ナイトが最初にタイガーのサンプルを送った相手が、大学時代の陸上コーチ、ビル・バワーマンでした。オレゴン大学の陸上部を長年率いた名指導者で、 NCAA王座も複数回制した人物です。バワーマンは靴を売るだけでなく、「自分もパートナーになりたい。そして靴の改良アイデアを出す」と申し出ます。
1964年1月25日、2人は握手で共同創業を交わします。 出資はそれぞれ500ドルずつ。ここで重要なのは、2人の強みが まったく違っていたことです。
- ナイト=事業・販売の側:仕入れ、営業、資金、会社運営。 会計士としての数字の素養もここで生きた
- バワーマン=製品・技術の側:選手の足を知り尽くしたコーチとして、 走るための靴を「もっと速く、もっと軽く」改良し続けた
バワーマンは市販の靴を分解しては作り直す人でした。有名なのが、妻のワッフル焼き器(ワッフルアイロン)にゴムを流し込んで生まれた 「ワッフルソール」のエピソードです。この発想が後の ワッフルトレーナー(1974年)につながり、ナイキ躍進の一因になりました。
なぜ「売る人 × 作る人」は強かったのか
ナイトとバワーマンの関係から学べることは、とてもシンプルです。
片方が「靴を世に届ける仕組み」を作り、 もう片方が「届ける価値のある靴」を作る。どちらが欠けても、ナイキにはならなかった。
もしナイトが「販売も製品開発も自分ひとりで」と抱え込んでいたら、 ブルーリボンスポーツは一介の輸入代理店で終わっていたかもしれません。 逆にバワーマンひとりでは、優れた靴を作れても、それを全米に売る事業には ならなかったでしょう。強みが重ならない2人が組んだことが、 この物語の核心です。
やがて2人は、他社製品を売る立場から脱し、1971年に自社ブランド「ナイキ」(ギリシャ神話の勝利の女神ニケに由来) へと生まれ変わります。副業の行商から始まった小さな会社は、ここから世界へ向かいます。
起業準備中のあなたへの学び
ナイキの原点には、これから起業する人が勇気をもらえる要素が詰まっています。
- いきなり脱サラしなくていい:ナイトは会計士の本業を続けながら、 車のトランクで靴を売る副業として始めた。今の仕事を持ったまま、 小さく動き出すのは、決して弱い戦い方ではありません
- 全部を自分でやろうとしない:ナイトは「作る側」の相棒を早くに得た。 自分に足りない半分(製品、あるいは営業・経営)を持つ人と組むほうが、 遠くまで行けます
- 最初の資本は大きくなくていい:出発点は1人500ドルの握手でした。 大切なのは金額よりも、強みの違う相手と一緒に踏み出せるかです
あなたが「作れる人(技術・製品)」なら、事業に育てる相棒を。 あなたが「売れる人・回せる人(営業・経営)」なら、価値あるものを作る相棒を。 (共同創業の役割分担は共同創業者で成功したスタートアップ10選、日本の名コンビは本田宗一郎 × 藤沢武夫でも解説しています。)
まとめ
- ナイキの原点は、会計士の副業として車のトランクで靴を売る、 ごく小さな一歩だった
- フィル・ナイト(売る・事業)とビル・バワーマン(作る・製品)という強みの違う2人の共同創業が、代理店を世界的ブランドに変えた
- いきなり大きく賭けなくていい。今の立場のまま、足りない半分を持つ相棒と 小さく始める——それが再現できる型
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