「疲労回復パジャマ」として知られるBAKUNE(バクネ)。 しかし起業家の視点で本当に面白いのは、商品の機能だけではありません。「どんな課題から生まれ、どう改善され、どう事業になっていったのか」—— ここに、これから何かを作ろうとしている人へのヒントが詰まっています。 本記事は、TENTIALとBAKUNEを題材にした商品・事業づくりのケーススタディです。
はじめに立場を明確にします。この記事はBAKUNEの商品レビューでも、 購入をおすすめする記事でもありません。また、後述するように健康や 一般医療機器に関わる内容を含むため、効果に関する記述はTENTIAL公式が説明している範囲にとどめ、私たちの側で拡張しません。 事実(OBSERVED)と、そこからの推測(INFERENCE)・学び(LESSON)を分けて整理します。
TENTIALとは — 「パジャマ会社」として始まったのではない
株式会社TENTIALは2018年2月に設立された企業で、代表は中西裕太郎氏。現在は東京証券取引所に上場しています(証券コード325A)。 公式に掲げるMissionはCoPath側の言葉ではなく、TENTIAL公式サイトの表現を借りれば「健康に前向きな社会を創り、人類のポテンシャルを引き出す。」というものです。
ここで起業家が押さえたいのは、会社概要の羅列ではありません。TENTIALは「パジャマ会社を作ろう」から始まったのではなく、『コンディショニング』 (体を整えること)という上位の課題を先に持っていたという点です。 BAKUNEはそのコンディショニング事業(睡眠・仕事・足まわりなど複数領域がある)の 一つの答えとして登場した商品でした。
- OBSERVED:TENTIALはコンディショニングという領域を掲げ、その中の睡眠領域からBAKUNEを生んだ。
- LESSON:作りたい「商品」よりも先に、解決したい「課題」を持っている会社は、商品が一つ当たっても次に展開しやすい。
なぜ睡眠、そしてパジャマだったのか
この記事でいちばん面白いのはここです。TENTIALが最初から「パジャマを売りたい」と 考えていたわけではない、という点に注目してください。
公式が説明する製品思想をかみくだくと、発想はおおよそ次のような順序でつながっています。 忙しい人でも日常の中で無理なくコンディショニングしたい。ならば、 毎日必ず訪れて長い時間を占める睡眠に注目するのが自然だ。そして睡眠中に長時間・広い面積で肌に触れ続けるものは何かといえば、それはパジャマ(着るもの)だ——。「着るものを変えるだけで取り入れられる手軽さ」 という考え方は、TENTIAL公式自身が製品の価値として語っているものです。
- OBSERVED:TENTIALは「整えたい」という課題から、睡眠 → 着るもの → パジャマ、と絞り込んでいる。
- INFERENCE:これは「作りたい商品」から出発したのではなく、「解決したい課題」から手段を逆算した設計に見える。
- LESSON:起業家がまず考えるべきは「何を作るか」ではなく「どんな課題を、どんな生活の接点で解くか」。手段(商品の形)は課題から導かれる。
BAKUNEは何を変えようとした商品なのか
商品そのものも簡単に押さえておきます。ただし、ここは健康・一般医療機器に関わる領域なので、TENTIAL公式の説明の範囲で記述し、効果を保証・拡張することはしません。
TENTIAL公式によると、BAKUNEは一般医療機器「家庭用遠赤外線血行促進用衣」として 届け出られています。公式に挙げられている内容は血行促進・疲労回復・筋肉のコリ等の改善で、 その仕組みとして、身体から放射される遠赤外線を独自の機能繊維SELFLAME®(大手繊維商社・豊島株式会社と共同開発)が吸収し、熱に変換すると 説明されています。
※ 本記事は効果を保証・宣伝するものではありません。効能に関する表現は、着用ですべての人に 同じ結果が出ることを意味しません。詳細・最新の届出内容は必ずTENTIAL公式の各製品ページをご確認ください。
- OBSERVED:BAKUNEは「着心地のいいパジャマ」ではなく、公式には一般医療機器という枠組みで位置づけられている。
- LESSON:既存の市場(パジャマ)でも、「機能」という別の軸を組み合わせると、価格や意味づけの異なる新しいカテゴリーを作れる可能性がある。
プロトタイプと検証 — 最初のアイデアをそのまま出したわけではない
起業初期にありがちな誤解は「良いアイデアを思いついたら、それを完成品として出せばいい」という ものです。BAKUNEの開発過程からは、そうではない様子がうかがえます。TENTIALは素材(SELFLAME®の 共同開発)とパターン(体に沿う形・寝返りのしやすさ)の両面を作り込み、研究・試作・検証を重ねて商品化していったことを公式に発信しています。
- OBSERVED:素材とパターンの両輪で開発され、いきなり最終形が出たわけではない。
- LESSON:最初のアイデアは仮説にすぎない。作って、試して、直す——このループを回せる体制こそが商品を「使える形」にする。
作って終わりではない — 売った後も直し続ける
BAKUNEが興味深いのは、発売して終わりにしていない点です。TENTIALは公式noteなどで、素材・シルエット・着心地・寝返り・通気性などを継続的に見直し、BAKUNE Dry / BAKUNE Dry Pro / BAKUNE Ladies / BAKUNE Mesh といった派生モデルや、 寝具の BAKUNE COMFORTER などへと広げてきたことを発信しています。
- OBSERVED:単一商品で止めず、改善と派生モデルの展開を続けている。
- LESSON:商品は「リリースがゴール」ではなく「改善の起点」。顧客の使い方や声を、次のモデルへ戻していく仕組みが事業を伸ばす。
BAKUNEの現在地点
規模についても、公式が発表している数字だけを、そのまま引用します。TENTIAL公式のリリース(2026年4月21日公開)によると、BAKUNEシリーズは 2025年12月時点で累計販売200万セットを突破しています(同社の注記では、トップス・ボトムス 2点で1セット換算=400万枚の販売実績)。
ここで一つ、起業家として大切な線引きをしておきます。「よく売れている」ことと 「なぜ売れたのか」は別物です。本記事では、公開されている事実(売れている、改善を続けている)は 紹介しますが、「この戦略だから売れた」という因果は断定しません。売上は結果であって、 成功の理由そのものではないからです。
商品からブランドへ
TENTIALはBAKUNE(睡眠領域)だけでなく、コンディショニングという上位概念のもとで、 仕事中や足まわりなど複数の領域に機能性製品を広げ、研究開発やアスリート支援にも取り組んでいることを 公式に示しています。
- OBSERVED:BAKUNEという一商品が、コンディショニングという「傘」の下でブランドへ広がっている。
- LESSON:商品より上位に「解決したい課題」があると、一つの成功商品を、複数商品・ブランドへ育てていける。
起業家がBAKUNEから学べる5つのこと
ここまでの観察を、起業を考える人向けの学びとして5つに整理します。
- ① 商品ではなく課題から考える: OBSERVED=TENTIALは「整える」という課題から睡眠・パジャマへ絞り込んだ。 LESSON=最初に問うべきは「何を作るか」ではなく「どんな課題を解くか」。
- ② 既存市場でも、切り口の組み合わせで新しい価値になる: OBSERVED=ありふれた「パジャマ」に「機能」という軸を掛け合わせた。 LESSON=ゼロから新市場を作らなくても、組み合わせで新しいカテゴリーは生まれ得る。
- ③ 最初の商品を完成品だと思わない: OBSERVED=素材とパターンを作り込み、試作・検証を重ねている。 LESSON=初回リリースは仮説。直す前提で世に出す。
- ④ 顧客の反応を次の商品へ戻す: OBSERVED=改善と派生モデルの展開を継続している。 LESSON=売った後の観察と改善こそが、二本目・三本目の商品を生む。
- ⑤ 商品より上位の「課題」を持つ: OBSERVED=コンディショニングという傘の下でブランド化している。 LESSON=上位の課題があれば、一つの成功を事業全体へ広げられる。
一人ですべての専門性を持つ必要はない
最後に、これから起業する人に特に伝えたい点です。BAKUNEのような商品は、一人の思いつきだけで完成するものではありません。TENTIALは公式の発信の中で、 商品開発に企画・デザインを統括する責任者、パターンを設計するパタンナー、 素材開発や研究開発の担当など、異なる専門性を持つ人たちが関わっていることを 示しています(たとえば商品本部を率いる松永良大氏のように、パタンナー出身で企画・生産・品質管理まで 統括する役割があることが紹介されています)。
ここで重要なのは、「共同創業者がいたから成功した」といった証拠のない因果を、 私たちが勝手に語らないことです。あくまで観察できる事実は、一つの商品を形にするにも、複数の専門性が噛み合っているという点だけです。 そして、それはそのまま起業に一般化できます。
- アイデアはあるが、作る技術がない
- 技術はあるが、売り方が分からない
- マーケティングは得意だが、商品開発は分からない
こうしたギャップは、一人で全部を埋めようとするより、足りない専門性を持つ人と組むほうが 早く前に進みます。技術者に必要なのは事業をつくる相棒であり、事業側の人に必要なのは作れる相棒です (この「役割分担」の考え方は本田宗一郎と藤沢武夫の事例や、非エンジニアが技術パートナーを探す方法でも 掘り下げています)。
自分にない強みを持つ仲間を探す
起業するとき、最初から一人ですべてができる必要はありません。 自分が得意なことと、足りないことを整理し、自分にはない強みを持つ人と出会うことも、事業を前に進める確かな方法の一つです。 TENTIALのケースが示すのは、優れた商品ほど複数の専門性の掛け算で生まれている、 という当たり前の、しかし見落としがちな事実です。
※ 本文中のTENTIAL・BAKUNEに関する記述は、TENTIAL公式サイトおよび公式プレスリリース等の 公開情報(2026年9月時点で確認)に基づく概要です。最新かつ正確な内容(効能・届出・販売実績など)は、 必ずTENTIAL公式の各ページをご確認ください。BAKUNEは一般医療機器として届け出られた商品であり、 本記事は効果を保証・宣伝するものではなく、着用による結果には個人差があります。 CoPathはTENTIALと資本・提携関係にありません。本記事は起業・商品開発を学ぶための事例紹介であり、 医療・法務・投資に関する助言を提供するものではありません。
自分にない強みを持つ仲間を探す
いいアイデアや技術があっても、一人ですべてを担うのは大変です。CoPathは、日本語ファーストの 共同創業者マッチング。あなたの得意分野と、足りない専門性を整理し、事業を一緒につくる相棒を 探せます。匿名のまま準備段階から動け、いまは全機能が無料です。
一緒に事業をつくる仲間を探す